飛花落葉の理想郷
ひび割れた煉瓦に敷かれた道を、一歩、また一歩と踏みしめて歩く。
手袋などで覆われてはいない白い手指を、秋冷とした外気がまた更に白く染めていく。
血の気の引いた己の指と指を絡めながら、彼はゆっくりと歩き出した。
紅の双眼に映る光景は、彼が知っているものとは違う。
果てなく澄んだ空から地へと、陽光が柔らかな手を差し伸べて、市街地の中心にある大きな噴水に虹を架けていた。そんな晴れた日には、弓形を描く虹の橋の下で子どもたちが楽しげにはしゃいで駆け回り、見守る大人たちは眉根に皺を寄せていたけど、口角を上げてもいた。道も広場も建物も、街そのものが赤茶の煉瓦を積み重ねて造られていて、全体に陽が差せば、ひとつひとつが川面のようなきらきらとした光を放っていた。
いかにも平和で、安穏としていて、調和に満ちた街が張りぼてに過ぎなかったなど、あの頃の誰が信じただろう!
彼は感傷に浸って動けなくなるような悪癖など持ち合わせていないけれど、故郷を襲った悲劇(もしくは他の国で言うところの”身から出た錆”)に何も感じないほど冷血ではなかった。
だから、敷かれた煉瓦の大半がひび割れ、あるいは砕けてひっくり返って、その下の土塊が顔を覗かせていても、天から濯ぐ光は変わらず穏やかで、安心感を得るとともに、未曾有の惨事が現世に起きたとて、上天におわすとされる神々は憐れんでさえくれないという諦念も僅かに湧く。街のシンボルであった噴水は、あの怪物どもの爪甲でもはや見る影もないが、その際に給水管が割れたらしい。噴水よりもなお高く水は吹き上がり、勿忘草の色の空に、それは虹が描かれていた。
鳥が泳ぐ空の雲、蝶が踊る宙の虹。
どちらも掴めないものなのだと、つまらない大人はよく分かっている。いくら諭されても手を伸ばすのが子どもである。
ほんの数ヶ月前のかつてのように、否、それ以上に楽しげに声を上げ、有り余る体力で駆け回り、そして、今の街をただ黙って眺めていたルージュの背面へと、何人かの子どもたちが抱きついていく。
一人ひとりは幼く小さくても、数が集まればそれなりに大きな衝撃となる。成人男性ではあるが、肉付きの薄い背中で受け止めたルージュは、ごく短く呻き声を上げた。
それでも、悠々とした所作で以て、彼は振り返る。
そこにいたのは、案の定、子どもたちである。体躯は小さくとも法衣に身を包んでいるのはこの国らしい特徴だが、逆に言えばそれ以外は他の場所にいる子らとも、それ程変わらないように見える。――よくよく見てみても、顔つきに体つき、宿す色彩までも似通っている子たちが何組かいるだけ、ただそれだけのことだ。
腰のあたりで団子のように引っ付いている子どもたちの、ともすれば折れそうに細くて柔らかい腕(かいな)を、それは優しい仕草で剥がし、頭をひと撫でしてやる。すると、子どもはくしゃりと破顔して、今度はルージュの周りをくるくると回り始めた。
――不意に、命あればこそ、という言葉が、彼の脳裏に浮かぶ。
外気にさらされながら、あちこち走った後の子どもの頬は、出来秋に熟れる林檎の色に、もしくは、彼に名付けられた紅に染まっていた。
彼自身も、ここ小一時間程度は屋外を散策していることもあってか、頬にほんのりとした熱が集まりつつあることを感じていたし、逆に、鼻先は水に浸けたように冷たくて、けれども、どちらも似たような色が乗っているだろうことは、容易く想像できた。
一体何が楽しいのか、まだルージュの周りできゃいきゃいと騒ぎながら駆け回る子どもたちをそれとなく気にしながらも、彼の双眸は別のものを捉えていた。
夏よりも少しだけ色を失い、その代わりに水のように透けた青い空。
その色は美しいものなのだと、そう彼が感じるようになったのは、実はほんの最近のことである。
今日は雲のひとつも掛からない空がまぶしくて、ルージュは手を翳した。ほとんど、無意識的に。
小手に覆われていない右手は、頬や額と同じくらいに生白い。そのためだろうか、はたまた、別の理由もあるだろうか、男性にしては細い手首、少しは肉の付いた掌、そして年齢相応には伸びた五指に絡む血管が、いやに赤々としているように映る。それは、彼の身体に走る血潮の色で、彼の瞳ととても良く似た、だけど少しだけ違う色をしていた。
「――、――、どこにいらっしゃるの」
現在のこの地において、彼の呼び名はいくつもあった。
先生との呼び名には懐かしい過去を思い出し、幼子に父と呼ばれれば妙なくすぐったさを覚える。
救世主様、と大仰な呼び方をされることもある。その度に、血よりもずっと苦い唾が、硬く引き締めた頬の裏に滲み出た。
もちろん、生まれた時に与えられた名をそのままに呼ぶ者もいる。しかし、そういった人たちはむしろ少数になってしまった。そのことが、時折、彼には無性に寂しく思えた。
「シップの発着場に行くんだよ。今日届いた荷物を、確認しなくちゃいけないからね」
ありあわせの資材での突貫工事だったのだが、臨時のリージョンシップ発着場ができたのは今から2ヶ月程前のことである。多忙を極める彼と比べてしまえば、割かしのどかでのんびりとした日々を過ごしているのが現在のルージュである。そんな彼にとって、唯一の仕事と言えるのが、ほとんど毎日この国に届く、各種支援物資の確認だった。……とはいうものの、荷降ろしや仕訳といった作業は他の者がてきぱきとこなすので、ルージュがやることは本当に確認だけなのだけれど。
「僕たちも、いっしょに行って、いいですか」
ルージュよりも頭三つ分くらいは背の低い、柔らかい髪色をした少年が、上目で怖じ怖じと声を掛けてくる。寒空での日差しのような、あるいは炎昼での天雲のような、どこまでも穏やかな空気を湛えたこの人は、実のところ、この国で二番目にえらい人なのだ。物知らぬ子どもは容易く気安く接するが、物事の価値を知り始めた少年は、柔和な面持ちで佇むその人が、途方もなく大きなことを成し遂げた偉人であることを知っている。彼の中に芽生えて開き掛けた大人の部分は、畏れを抱いているけれど、だからとて、年頃の少年が持つ剥き出しの好奇心を抑えるにはとても足りない。
――かつては少年だった彼にも、そういう頃があったのだ。
まだ少年だった頃の彼を、ルージュは知らないけれど、己の心のままに駆けるその人の姿を想像することはできなかった。
「ああ、僕は構わない。
だけど、君たちが触れては危ないものがあるから、そういうものには近づいてはいけないし、仕事をしている人たちの邪魔をしてもいけないよ」
少しばかり腰を落として、話しかけてきた少年の、髪色と同じく淡い色合いの瞳に、己の紅の瞳を重ねる。端から見れば、それこそ教師か親人のように見えるのだろうか、なんて思いながら。
一人、二人、三人、四人、そして五人。
六、七、八に九に十、それ以上は指が足りないから数えられない。
数ヶ月前から相も変わらず、割れた硝子に瓦礫ばかりが積まれて崩れるこの街の道を、紅い法衣を来た青年と、年端もいかぬ少年少女が鼻歌を交えながら歩いていく。
それは、飛ぶ鳥よりも軽やかで、濯がれる陽光よりも明るい旋律だった。
◇◆◇
あくまでも仮設ということで、元あったものに比べれば狭々とした船渠には、各領域から救援に来た船やその乗組員、彼らが運ぶ多くの積荷らが、餌に集る蟻のようにわらわらと群れて蠢いていて、より一層窮屈なように映る。
実際のところ、何もかもが絶対的に不足しているのだ。
マジックキングダムが、国家としての機能を停止するほどの甚大な被害を受けたこと、そこで暮らしてきた人々の半数以上は亡くなったこと、そして、王国がトリニティと共謀して隠蔽してきた「地獄」の存在。何よりも、「地獄」を再度封印した英雄、あるいは救世主とも称される術士の尽力。何もかもが、外の国にて営む者の目を惹き、耳を寄せ、そして胸を震わせた。
同時期にトリニティの七執政制度の腐敗が明確なものとなり、魔術王国崩壊を含めた国際的な問題に何一つ対処ができなかったとして、制度廃止を宣言せざるを得ない程の批判を浴びた。その一方で、見目麗しい双子のの術士が外界での修行の果てに舞い戻り、化け物どもを打ち倒して故郷を救ったという事実は、さながら英雄叙事詩のように聞こえがよく、王国の民のみならず、あらゆる国々の人たちの心によく響いた。
いつか寓話にも喩えられるだろう王国の現実を目にして、支援を申し出た他国、組織、個々人はそれこそ数多に渡る。その中には、もちろん黒い思惑を持っていたり、今後何かしらの見返りを求めたりなど、水面下での駆け引きを要する案件もあるが、大多数は純然たる善意によるものだった。
かくして、あらゆる地の芳情を詰め込んだ船が、連日連夜と訪れ続けているのだが、何せ急場凌ぎで拵(こしら)えられた施設である。大量に届けられるモノやヒトを保持する収容力がなければ、迅速かつ正確に捌く処理能力もまだ足りず、荷役の担い手にも事欠くような状況だ。復興をどこから進めていくのか、まずはその道筋をつける段階なのである。
今の自分自身でも、できることはあるはずだと、ルージュはそう考えているのだが、悩み事も悩ませられる事柄にも尽きない彼の半身は、当面の肉体労働を禁じていた。
(確かにひょろひょろしてるけど、肉のある身体なのに)
今日も今日とて、右から左へと流れてくる支援物資と目録とを確認しながら、いつもと同じ不満を己自身に愚痴る。
次はヨークランドからの荷物だと告げる声と、どこかでは聞いたことがあるが、ルージュ自身は知らなかったはずの間延びした声とが重なった。
「よう、ルージュ。元気そうだな〜」
「やあ、リュート。今日も来てくれたのか」
二人でほとんど同時に片手を挙げて、それから握手を交わしあう。
その様子を端から見れば、かなり古くからの親友同士のように見える。実際には、ほとんどすれ違う形で出会って半年、きちんとした形で知り合って二ヶ月経つか経たないかというところだった。
肥沃の地、ヨークランドから一念奮起して旅立ったリュートは、時折故郷に戻りつつ、今でも気ままな旅を続けている。このように、支援物資を携えて王国に訪れることもしばしばあった。
トリニティ成立以降の惨禍とされる大事件・大災害の連続から早や半年、図らずもその中心でふらりと流離い、時には剣を持ち脅威に立ち向かったリュートを英雄視する者もいるが、本人に言わせてみれば、「まだ母ちゃんに顔見せできるくらい立派にゃなってねーよ〜」とのことらしい。
とかく、リージョン界全体がまだ混乱の渦にある中、本人は知ってか知らず(恐らく知らないだろう)、各所への影響力を俄に持ち始め、まだ終わりの見えない流浪の旅の中で、難題をするりと解決してみせるリュートの来訪を喜ばない訳がない。
ましてや、彼は半身の旅仲間でもあったのだから。
堅く握った右手から、皮膚の厚さと硬さと、その下を流れる赤い血の熱さと、それから彼自身の飄々としていて徳を備えた人柄を感じ取る。――
どれもこれも、己も半身も持ち合わせていないものだから、羨ましくあり、少しばかり疎ましくもある。
そんな妬心を臓腑の隙間に押し込み、ルージュはやんわりとした笑みを湛えながら口を開く。
「今日はヨークランドからか?
君の故郷だろう、少しはゆっくりすればいいのに」
「あんまり長居すると母ちゃんにどやされそうでさ、おっかないんだ。
それに、少しは人様の役に立てるようになったんだから、キリキリ働いてこいっても言われるし」
「ははは、君のお母上はなかなか手厳しいんだね」
「全くだ、世の中もずっとこんなんだしな、落ち着かねえよな」
「……――そう、だな」
やがて右手と右手が解けて、離れて、線や色の違いが明確となる。
それからルージュは目を眇めてみせた。ちょうど、普段のリュートとよく似た面持ちとなる。
(世の中、か)
22歳を迎えて、修士課程を修了し、外遊の旅に出たあの日から、1年と少しの時が経った。
つまり、ルージュは今、23歳のはずである。
屋根のない船渠には、先ほどよりやや傾いた陽が、立ち止まるリュートとルージュを、忙しなく動く人を、人の手により遅々とは動く積み荷を等しく照らしている。しかし、その中でもルージュの肌は、やけに白々しく映っていた。
(そんなに前のことではないはずなのに、旅していた頃が懐かしくなるなんてな)
どこからか吹き込んだ風が、産毛の生えた頬と、たっぷりした量のある銀色の長い髪に触れる。ざわざわと、やや乱雑に、だけど、さわさわと、壊れ物にでも触れるように、とても優しく撫でていく。
その手は、異国の色彩の運び手でもあった。
軟風はルージュのみならず、目の前に立つリュートや、船渠で立ち働く者たちに触れながら、縦横無尽に動き回り、彼の国と此の国の空気をかき混ぜる。王国の土の匂いと、船が連れてきたどこかの地の甘やかな香り、辛い香りとが綯い交ぜとなり、壁、床、土、着類、人の髪や肌に浸みゆき、輪郭が失せ、形を無くし、やがて認識ができなくなる。
何もかもを渾然とする風の中にあっても、喩えるならば嵐でも来れば、すべて吹き飛ばすに違いない。
五割は苦くて二割は辛く、けれど一割だけは甘い、シガレットの薫香。
そういう色形をした嵐が、IRPOの標の付いたシップから降り立つ。
「――ヒューズ! 久しぶりだね」
「おお、パトロールのおっさんか!」
「おっさんは余計だ。
……ルージュ、に、リュートか。まあ、しばらくぶりだな」
琥珀色の髪を揺らしながら、中肉中背の男が舷梯を下ってくる。よく、それなりに見知った容貌を視界に認めて、ぱちくりと珈琲の色した眼を瞬かせた。
この男もまた、先の大騒乱にて獅子奮迅の活躍を見せた者の一人である。何だかんだで茫洋としたリージョン界の隅から隅までを奔走し、多くの困難をやや(いや、かなり)乱暴にだが解決してみせた。その大車輪のごとき勲労の数々は、IRPOどころかトリニティの高官の目にまでも止まり、目出度く栄達と相成るところを、彼自身が断ったとの専らの噂であるが、人格に問題がある故に立ち消えになったとの説もあり、とかく、彼が今でも第一線にいるという事実だけは変わらないのだった。
この男もまた、リュートと同じく、折に触れては魔術王国を訪れてくれる者の一人だった。彼は公僕であり、出世こそ断ったものの、多くの手柄を立てているから上層部には相当顔が利くし、本人は望んでいないのだろうが、政治力も少しはある。それを使って、王国のために便宜を図ってくれることもあった。
他国に頼らざるを得ない状況を、甘んじて受け入れるしかない現状を、情けなく思うこともある。もしも真実が明るみになれば、魔術王国については自業自得で、奢れる者どもの末路にこの崩壊は相応しいと謗られることだろう。
己も半身も、この国を見限ろうと、ほんの一時だけは思った。
それでも自分たちが生まれ、育ち、命を懸けても戻りたいと願った遙かなる故郷、そして、何も知らない、知らなくていい子供たちが育っていく土地なのだ。差し伸べられる手をどうして拒めようか。
「今日はどうしてここまで?」
「パトロールのついでだよ。
あと、例の資材について目処が立ったらしくてな」
「えーと、前にブルーが言ってた、シンロウ産の木材のことだっけ?」
今ももちろんだが、かつての王国も建築資材に関しては他国に頼っていた面がある。というのも、魔術王国は魔力に満ちた地だった。だからこそ万物に魔力が宿り、生まれた者には魔術の資質を得るのだが、それと同じことが動植物にも起こる。他国と同じ種の植物であっても、物性が異なってくるのだ。魔力を含んではいるが、脆く繊柔な別物となる。それも時の流れとともに変わっていくだろうが、しかし今は、多くの人間や調度品の重さに耐えうる木材の調達が急務であった。
「そうか、いつも迷惑を掛けて済まないな」
「いや、そんなことはねえよ。ここじゃあ、俺にできることは限られているしな。
……それより、元気でやっているみたいだな。こっちとしても救われるわ」
ひとまず無事に到着し、吉報を伝えられたからか、真新しい紙巻き煙草に火を点けたヒューズが、安堵したような表情を見せる。風に灯火を煽られまいと、合皮の手袋で風除けを作るその仕草が、なぜだかルージュの網膜に焼き付いた。
嵐にも信管にも喩えられるこの男とルージュは、そう遠くもない半年ほど前の昔、旅路を共にしていた。盾のカードを得てからの旅は、なかなか刺激的だったことを、ルージュは覚えている。その感覚ですら、今の彼からすればどこか遠く、一枚の膜を隔てているようで、そしてひどく懐かしい。
(おかしいな、思い出に浸る感傷的な趣味なんてないはずなのに)
またもわき上がる情念を表には出さないようにして、ルージュは朗らかに笑ってみせる。
「僕は元気だよ、相変わらず体力はないんだけれどね」
「そうだよなあ、この前、ぬいぐるみ一つ運ぶのにも苦労したって聞いたぜ」
「そ、その話はどこから!?」
「そこら辺歩いてるチビたちから。いい子たちだよな、本当に」
「それは僕も否定しないけれどさあ……!」
暮らしてきた街は半壊、親しい者を亡くしてもなお、元気に振る舞う王国の子どもたちは、欲目を通さずとも、健気でいい子たちだとルージュも思う。……このリュートの前で素直になってしまうのも致し方なしか、とルージュはひとつ息を吐いた。弁明したい点がいくつかあるが、それではそれぞれの仕事の妨げになるだろう。積もる話はあるが、時間は惜しいものである。
「――二人とも、彼のところにも用があるんだろう」
「そりゃ、そうだな。書類はお前に託してもいいだろうけど、これからの話もしなきゃならんし」
「俺も俺も。ヨークランドから支援隊を組むって話が出てんだよ〜。
そこら辺の調整をしてこいって言われたけど、俺一人じゃ無理だよなあ」
「お、ヨークランドからも出すのか。
確か、レッドの野郎も言ってたんだが、シュライクからも災害派遣部隊を編成するって話になってんだってよ。
今はどんな面子にするかってとこらしいが、そもそもキングダム側の受け入れ体制が整ってないと始まらないだろうな」
「それは今、彼と僕も一緒に考えているところなんだ。
気持ちはとても嬉しく思っている。だけど、何事にも順序があるからね。
――まずは、ブルーのところに行こうか。
それからじゃないと、何もかも始まらないだろう」
かつてのそれに比ぶれば、些か手狭な船渠と、善き人の思いの数だけ高く高く積み上げられた貨物の群れ、道なき道で行き交う人々、立ち止まる人々、彼らが思いを馳せる壊敗した旧い王国の瓦礫、そして再生を目指す新たな王国の芽、それら全てに触れて巡っていた風が、止む。
かくして訪れる凪の刻、過ぎた風の痕を静寂が埋めていく。視界にある風景の、形や色の何もかも、何一つ変わりはしないはずなのに、そこにあったものが欠けてしまったような、それから新しく重ねられたような、ルージュはそんな印象を強く覚えた。
「あ、そうだ、ルージュ。その前にこいつを渡しとくよ」
船渠から出口へと向かう道すがら、そそっとリュートがルージュの耳元に口を寄せる。
隠すようなものでもないけどよ。でも、お前さんたちはさ――。
そんな言葉と共に受け取った紙袋を、ルージュは柔らかく、壊れ物に触れるように、だけど確かに抱きしめた。
◇◆◇
黒檀の木枠に硝子がはめ込まれた、それは古めかしい窓から、薄い陽光が差し込んでくる。まともに手入れされていれば、さぞや御見事な逸品なのだろうが、所詮は年代物でしかない絨毯から、埃が立ち上る様子が、黒い影となってくっきりと浮かび上がる。
その様子を、彼の青い瞳もしかと捉えた。
しかし、些細な事象に割く時間はない。
彼は眼前の文書に視線を戻す。白く、細く、すーっと伸びたその指で、文字列を辿り、表に載る意味を、裏に在る真意を読み解いていく。
――遠く、遠く、どこからか、唄が聞こえてくる。
旋律はぎりぎりのところで形を成しているが、音程はまるでばらばらで、妙響には程遠く、むしろ不協和音の方が近い声と声の重なり。
かつて、旅を始めた頃の彼であれば、不協和音どころか、唄そのものにでさえ嫌悪を示しただろう。しかし今は、この部屋、この街、この王国を照らす天光のように、彼の胸の内を穏やかに暖めるものである。
てんでばらばらな歌声を聴きながらも、己に課した勤めに取り組む。
目下の課題は、住居の確保である。王国崩壊から半年近くの時が流れ、急迫の事態からは脱したものの、先の見えない状況が続き、住人は疲れ切っている。せめて、誰もが安心して身を寄せることができる住居が足りればいいのだが、絶対数が足りない現状である。ならば作るしかない。けれど、人手も資材も足りない。ないない尽くしだ。そもそも政治的な駆け引きに折衝など、術漬けだったこれまでの人生でやったこともない。正直、頭を抱えてしまいたかったが、それで問題が解決する訳はない。それ以上に、目の前の問題からの逃避など、彼の気質が、矜持が許さない。
すっかり冷めてしまった紅茶を一気に呷ってから、彼はまた机に向かう。
窓から見えるはずの広葉樹、その葉が秋風に揺られ、一枚、また一枚ともぎ取られていく様子も、今の彼の視界には入らない。今度は筆記具を取り、上等な洋紙に何事かがさらさらと書き記していく。筆致は流麗そのもので、まるで彼の人の金糸のようであり、また容貌のようでもある。
こんこん、と堅く握られた拳で、硬い扉を叩くごく単純な音が、彼の鼓膜を震わせた。
筆記具を置き、右手をまっすぐ前へと伸ばして、樫の扉のその先の気配を探る。悪意や敵愾心といったものは感じられない。むしろ、友好的なもののようだ。
数は三つ。一つ、うざったいくらいによく見知ったもの。一つ、彼自身には覚えがないが知ってはいるもの。そして、もう一つ。それは己にとてもよく似ているもの、だけど違うもの、かつての己そのもの、今となってもこれからも彼の半身であり、相補であり続ける者。
「ブルー? 入るよ」
合図に対する返事がないことを怪訝に思ってか、彼よりは幾分高めの、だけどやはり彼によく似た声が扉の外から問うてくる。
「ああ……、構わない。ちょうど、一段落したところだ」
答えてから、椅子の背もたれに己の体重を預け、身体を伸ばしつつ、やや長めに息を吐く。そうすると、少しは疲労が抜けていくような気がした。
実際的に疲労や疲弊を取り除くのであれば、術を使えば済むことだが、殊に、精神衰弱に術法の類はそこまで効果がないのだと彼が気づいたのは、一度何もかもが終わってからのことである。
――孤独を孤独と気づかないままならば、それはそれで幸福でいられたのだ。
可能性として全く有り得ないことではあるが、もしも旅路の最初から最後までを、ただ一人で進むことができたならば、思い悩むことは何もなかったのかもしれないし、独善的な決断を下さなかっただろう。
――散々の逡巡の末の結果は、正に目の前に。
立て付けが良くないからか、あるいは単に古いからか、鈍重な呻き声を漏らしながら、樫の木の扉が開いていく。
「よお、ブルー。ちょいと久しぶりかな?
しっかし、お前さんは相変わらず真面目だな〜」
「いや、この状況で真面目にやれない奴の方がどうにかしてるだろ……。
とはいえ、根を詰めるのもよくはないが」
「二人とも、もう少し言ってくれると助かる。
最近少し痩せたんだけど、僕から言っても聞かないんだよ」
抱えた紙袋をサイドテーブルに置き、目敏くもカップが空になっていることに気づいて、ルージュがティーポットともども茶器を手に持つ。ブルーはその行動を時に気にする風でもなかった。
室内をちょこまかと動く紅い瞳と、微動だにしない青い瞳、まるで対照的な二つを見比べて、目をぱちくりと瞬かせるヒューズに、微笑を絶やさないリュートである。
「……邪魔をしに来たのなら帰れ。知っての通り、暇ではない」
手にしていた筆記具を置き、徐りとした動作で立ち上がるブルーの、鋭利な視線は旅していた頃から変わりないし、他者を寄せ付けないような語調も相変わらずであるが、声音のざらつきはない。額飾りのない眉間に、皺は寄っていなかった。
「そう言いなさんなって。こちとら、い〜い話を持ってきたんだから」
「俺も俺も! 俺もそんなに悪くない話があるぜ〜」
ずい、と近づき、机に身を乗り出す二人に、表情は変えずに一歩、二歩ばかり後退りをするブルー、そして吹き出すルージュである。
「積もる話もあるだろうし、まずお客さんにはおもてなしをしなければならないね。
僕はお茶を淹れ直してくるよ、少し待っててくれるかい」
かちゃかちゃとポットとカップを擦り合わせながら、ルージュはトレイに茶器を載せて、よくよく暖められた執務室から退出する。
ばたん、と音を立てて閉まったドアを後目にして、ヒューズが何かを訴えかけるようにリュートの顔を見やる。そのリュートは、ブルーに本題……ではなく、世間話か与太話を語りかけており、対してのブルーは適当に相づちを打っている。旅の中で対応の仕方を学んだらしい。真正面より受け止めるより、さらりといなした方が楽である。時折、核心を突いた科白が飛び出るので、決して聞き逃せはしないのだが。
「ここに来るまでにクーロンにも寄ってさ、イタメシ屋にも行ったワケよ〜。
味はバッチリだったんだけどよ、ルーファスって言ったっけ?
あの店長のおっさんの、無愛想なトコは変わんなかったなあ〜。
ただ、キングダムの特注品、色々あったんだろ?
それが流れてこなくなったから色々やりづらくなったって、ボヤいてたぜー」
「護符やルーンソード……魔道具の類いか、工房ごと破壊されてしまったからな。
生憎だが、生産再開の見通しは全く立っていないぞ」
「そりゃあ誰だって分かってるって。
だから、店から……いや、正確にゃ、店じゃないンだろうけど。
一口援助したいって話よ、人手も出すってさ。その代わりにさ……」
「おい、パトロールの目の前で法外取引の話をするとは、ずいぶん度胸があるな兄ちゃんたち」
どうやっても聞き覚えのある人名がはっきりと出てくれば、黙っている訳にはいかない。
右眉をひくひくと引き吊らせながら、ここ最近は腕利きとも呼ばれているらしいヒューズが、”四方山話“に割り込んでくる。
ブルーは筆記具をくるくると回しつつも、針のように突き刺さる視線をすいと受け流し、リュートは意に介した様子もなく、いつも通りににこやかだ。
「……俺は、商務の話をしているのだが。
外貨獲得の伝手はいくつ付けていても困ることはないだろう」
「そういう話じゃねえよ、せめて俺がいないところでやれってんだ」
「いやー、俺さ。あそこにいるとびっきり美人のネエちゃんが目当てだったんだよ、あのブロンドの姉ちゃん!店辞めたそうだけどさ〜。そのついでの話だよ〜〜」
その金髪美女は大事な大事な俺の後輩とつい先日ゴールインしたばかりだ、とは後ろめたさもあって何となく言い出せず、ヒューズは下唇を噛みしめた。
リュートがほとんど一方的に話し、ブルーが偶に頷き、ヒューズが茶々を入れること数回。
話すだけ話して満足したのか、リュートがはあ、と息を付いて窓際に背を預けた。いつでも重そうな瞼から、葡萄色の瞳が覗く。
「しっかしなあ。ブルー、少しだけ変わったな」
「ん? そうなの? 前々から堅物で抜け目のない兄ちゃんじゃねえの?」
リュートはかつての旅路をブルーと共にした。だから、彼の気質を多少なりとも存知している。
ヒューズはリージョン界がとんでもなく騒がしかった少し前の頃、あらゆる種族の誰某(だれそれ)と出会ったり別れたりもした。ルージュはその際に知り合った者の一人だ。ブルーのことは知らない。外見と顔立ちと、遠くからでも感じ取れる冷然とした空気を覚えている。それだけだ。だから、彼のことを語れるほど、知ってはいないのだ。
窓は歪み、壁は傷み、扉が軋む執務室には、薄陽が差し込んでいる。雪を僅かに溶かすような、土中で眠る種を起こすような、淡い光。
その中心にいるブルーの、支子色の髪が、まるで光彩を放っているかのように見えた。目を灼いて潰す閃光ではなく、慈しみのように柔らかな光である。
ブルーは笑う。それは、かつてリュートが旅の中で見たような、冷笑いではなく、微睡むように穏やかな微笑だ。
「――否定はしない。俺は、今の俺にできることをしている。
必要があれば……、あの子たちを守るためであれば、変わっていくことも厭わない」
「……殊勝な心がけだねえ」
ポケットから煙草を一本取り出し、点けるか否かと迷うヒューズが、口をへの字に曲げて物を言う。
この場にシガレットを苦手とするものはいない。ブルーが無言で頷くと、ヒューズはあまり面白くなさそうにライターで火を点けた。
「こんな未来があるとは、想像もしていなかった」
金糸雀色に縁取られた、瑠璃色の目を伏せて、ブルーはぽつりと呟いた。
ただ落ちていくテノールの言の葉。
ぼんやりと煙る斜光の中にあっても、気が付かないはずがない。
けれど、ビターチョコレートのような言葉を拾おうとしても、届かないところに彼はいるのだ。仮に触れることができたとて、溶けてなくなってしまうかもしれない。
そのような思いがあったかどうかは分からない。
現実として、故国そのものの業を背負い、今はその果てで生きているブルーに、二人はすぐには声を掛けられなかったのだ。
やがて錫色の姿貌が、かちゃりかちゃりとこの場に喧しい音を立てながらやってくるまでは。
「済まない、ずいぶんと待たせたね。
カップを用意するのに時間がかかってしまって……」
木製のトレイに四人分の茶器を載せて、ルージュが樫の木の扉を器用に開きながら戻ってきた。
熱湯で開いた茶葉の芳醇な香りが室内に広がる。不思議なことに、シガレットのほろ苦い香味と混ざっても、誰も不快感は覚えなかったようである。
先に客人に茶を淹れ、次いで自らの分を注いでから、ルージュは残ったカップの一つとポットを机に置いた。
「お茶請けに菓子でもあればよかったんだけどね。いや、本当はあったんだけど」
「子どもたちに回したのか」
火傷しそうなほど熱々のお茶を、カップに黙々と注して、ブルーはあったはずの茶菓子の行方を言い当てた。
「正解。リュートからの『お土産』のビスコッティ、みんなおいしいって食べてたよ」
「おー、よかった良かった。母ちゃんに近所のおばちゃんたちが一緒に作ってたんだよ、伝えとくぜ〜」
音を立てて茶を啜り、リュートは莞爾とした笑顔を見せた。それから、あちっ、と声を漏らす。
「子どもはどこでも育ち盛りだろうからなあ。
三度の飯でも間に合わない、ましてこの状況だもんな」
「全体として食糧は足りている。……生命の維持に支障はない程度にはな。
選り好みはできないし、嗜好品などは以ての外、というところだな」
「菓子やスナックをもらうと、子どもに優先するようにしてるんだ。
栄養状態とかを考えると、たくさんあげても駄目だとは分かってるけど」
「ふーん、嗜好品か。そっちも少し考えとく。
案外、ファシナトゥールあたりに美味い菓子がありそうなんだが」
「いくらヒューズのおっさんでも、そっちの伝手はないんじゃないの」
「だからおっさんは余計だっつーの。……聞いてないのか。
まあ、妖魔の世界なんて、俺も蝶々やあのモグリの医者と知り合いでもなければ、今でも知らなかったろうし。
ファシナトゥールの城主、オルロワージュはな、ついこの間……」
「その話、もっと詳しく聞かせてくれるか?」
噂話、世間話、虚言、本音、理想と実利の混じる茶話。
朧気な線で繋がるかつての旅仲間の話は、陽が傾く少し前まで続いたのだった。
◇◆◇
日脚は伸びる、いつまでも伸びる、けれど、欠けたるものには決して届かぬ。
希望は高く、どこまでも高く、いずれ必ず、欲望へと変じて地に墜ちる。
物語のように遠い昔のことである。
この地にはとある力が宿っていて、幸いにも、住まう人々はその力を取り出して使うことができた。
火が揺らめき、水が流れて、風の息吹を受けて土が命を芽吹かせる力、リージョンがリージョンして形成す力、この世界の骨組み)であり法則。それらとはまた別に存在している力。そして、ある程度はヒトの手により御することができるその力は、「術」と呼ばれた。
この地に宿りしその力は魔術と呼ばれ、彼の地に居する者たちへの祝福となる。
痩せた土地に実るものなく、大人も子どもも餓えて命を落とすばかり。
魔術は彼の地の人々に、戦うための剣を与えた。それは略奪と侵攻の右手となった。
魔術は彼の地の人々に、護りの盾を与えた。それは癒しや慈しみの左手となった。
魔術はいつしか、人々の手で足であり、血となり肉となった。その頃には餓える者はなくなっていた。
ヒトは大概愚かなものだ。欠けたるものを手に入れて、満つることが叶ったのに、もっと、もっとと欲に塗れた黒い手を延ばし、蜜滴る果実をもぎ取ろうとする。
それから、魔術は呪いと化したのだ。
◆
夏日に照らされて輝いた緑青へと変じ、枯色になってから千切れて落ちる。
見上げた空には何もない。その刻の空色が見えるだけだ。
今は瑠璃のように、濃紺の緞帳に星を散らした夜の空をちらりと見てから、ルージュは小走りで廊下を急ぐ。二人分の食事を載せたトレイを持って、それらをこぼさないようにと注意を払いながら。
目覚めてからというものの、朝昼晩の食事作りは専ら、ルージュの仕事となっていた。彼は放っておいたら何も食べない。一度、物凄く癪に障ることがあって(ルージュも人間なのでそういうこともあるのだ、決して聖人君子などではない)、彼の分の食事を作らないでいたら、呆気ないほどすぐに倒れてしまった。
(アイツ、根を詰めすぎるんだよな。もう少し手を抜く……んじゃなくて、効率とか考えて働けばいいものを)
名前そのままの顔色となって身を横たえる彼を目にして、肝が冷えた。――その感覚を、彼に対して抱くようになった自分自身にも、驚いた。
己の肉体で再び目覚めた時のことを、彼はよく覚えている。
(当たり前だ、そんなに昔のことでもない)
喩えるならば、ぴちぴち鳴く小鳥の声をいつまでも聞いているような、穏やかで安らかな心境からは程遠く、胸のうちの渦巻く激情を、如何にして解き放つか。
再び自分だけの意識を取り戻したルージュが第一に思ったのは、そのようなことだったのだ。
ひゅう、とすきま風が流れ込んできて、厚い銀髪に隠れたルージュの首筋を掴む。
掴まれたところから肌が粟立ち、そのうち骨身にまで沁みてくることを察して、ルージュは彼が待つ部屋までの道を急いだ。
◆
昔、昔、その昔。寓話にもなれないお伽噺より、更に昔の真実の話。
彼の地に救いをもたらした魔術という力は、救いとなり、恵みとなり、確かに祝福であった。
欲の深いものどもが、過ぎたる力をもこの手に扱えると目を眩ませなければ、かようなことにはならなかったはずである。
あるいは、最初から約束された未来だったのかもしれない。
正しく力を行使できたことなど、ヒトが連ねた時間と歴史の上で、一度もなかったのだから。
彼の地に宿りし魔術の力、人々を導いたその力は、増えに殖えた人たち全ての喉を潤すほどには充ちていなかった。
豊かになるために、幸福であるために、我も我もと、人々は右手を、左手を、力を、魔術を求めたけれど、全ての人々に行き渡るほどではなかった。
そのうち、この力の恩恵に預かれずに、貧困、差別、飢餓、そして命を落とす者までも顕れるようになる。
偶然、偶々)、『欲望の種』が発見されたのはそのような時代(とき)のことであった。
人一人を生き長らえさせ、死者の意識を保ち、混沌に浮かぶ孤島さえも延命させる力は、魔術に長けた彼らだからこそ見いだせたのだ。
苦しみのない世界、皆が幸せになれる世界。
誰もが思う存分、力を貪ることができる世界。
願ったのはたったそれだけのことだった。
そして、魔術は呪いと化す。
確かに、力はものみな全てに行き渡り、彼の地に生まれることと力を得ることは同義となった。
代わる代わる役者を変えて、終焉すらない舞曲で踊り続けることになったのは、その代償だったのだ。
◆
どうしても今日中に始末をつけたい書類を、私室に持ち込んだ。
それはいつものことで、彼から小言をもらうのも最早日常の光景で、ブルーにとっては慣れたものになった。
今宵はなぜか、白い洋紙の上で綺麗に整列する文字たちが、ばらばらの律動で踊っているように見えて、どうにも落ち着かなかった。
この部屋に設えられた窓を見やる。硝子が木枠で頑丈に固定されていて、閉じると十字が現れるものだ。
透き通ったガラス越しに見える空は、青でも紅でもなかった。……敢えてどちらかと問われれば青に近いだろうが、全てを飲み込む混沌の黒を想起する者の方が多いのではないか、と彼は思う。
底の見えない黒の上で、数多の星が煌めいてる。
いつもと大して変わらぬ、恐ろしくなるほど美しい、満天の星空だった。
(――今日は大人しく、ここまでにしておくか。
アイツに何をうるさく言われるか分からないし、その方が面倒だ)
諦めたように筆記具を放りだし、書類はひとまず文箱に重ねておく。また空を見上げ、手を、指を伸ばす。星と星の間を指先でなぞり、線で繋げる。星座の形が象られることはなかったけれど、細長い指の軌跡は燐光のインクで描かれていた。
この光は、陽術の少しだけ応用したものである。旅のさなかで気づいた技術だが、到底役に立つものとは思えず、ブルーは頭の片隅に捨て置いていたのだった。それが現在、気休め程度の役には立っているのだから、人生とは分からないものである。
(俺は、俺には何一つ、理解していたことなんて、なかった)
双子として生を受け、故に常人よりも高い魔力を生まれ持ち、だが忌み子として育てられる。術の理論、実践、応用を徹底的に仕込まれて、その他の歴史とそれに伴う価値観くらいしかない。それすら偽りだったのだから、笑い種でしかない。
純然たる魔力の鎖を編み上げることに長けていても、乳飲み子をあやすことはできなかった。
いくら綿密な構文で魔力の檻を組んでみても、幼子を泣きやますことはできないのだ。
誰かの腕に縋りたいとも思ったけれど、ブルーより年嵩の者の半数以上は、この国を護るために死んでしまった。どれも、高位にあって、実質的に王国を動かしてきた者たちだ。
この国にそれほど価値はあるのかと、“あの”地獄から戻ってきてからも彼は思ったものだ。滅びるべくして滅んだのだと。
だけど、この国にはまだ、子どもたちがいた。
何一つ知らず、故に何の罪も業も背負っていない、純真無垢な子ども。
この子たちが育つための揺りかごとしての価値ならば、『力』が消えたこの国にもまだあるだろう。
だからブルーは、この道を選んだ。
生きていくことを選んだのだ。
かくして、まだそう長くも生きていない青年の細い双肩にこの王国の未来は託される。
彼が選び、彼が進む道は、一言で言えば苦難そのものだった。
彼は、術以外のことは何も知らなかった。知る必要もなかったからだ。
術のことだけを考えていればそれで済んだ過去は、なんと愚かしく甘美で幸福な日々。しかし、腹の足しにはならない。経済の仕組み、世界の歴史、などの政治的な知識も不足していたし、折衝のやり方もよく分かってはいなかったが、何よりも空腹に泣く子ども、この子どもに与える食糧を得る方法が最優先だった。
泣く子ども、喚く子ども、時々、笑う子ども。
彼ら彼女らに適当な食糧、身を包む温かな毛布や衣類、雨風を凌げる屋根や家屋、それから健やかに生きていくための知識、及び自立のための教育。
それは22歳のブルーがたった一人で越えていくには、あまりにも困難な、心を折って挫けても不思議ではない道である。同時に、挫折することは許されない道であった。否、ここから先を行ききらず、あっさり倒れて終えてしまうことを、生きていくことを選択した己自身が許さない。
(そう、俺が、アイツが、許さない)
そして、彼は知っていた。資質を得る旅の中で、知り得たのである。
いかに困難な道でも、利用できる……もとい、頼れる者がいれば、すんなりと解決できることを、知っていた。
それは、彼の中にいた彼が辿った道程でも、同じようだった。
だから、ルージュを蘇生したのだ。
己自身の魔力と命を分かちて、新たなる命の器、鏡写しのような肉体に、未だ混じり合わないまま、ブルーの中にそのままあったルージュの精神を吹き込んだ。
◆
この国にある扉は、どれもいまいち立て付けが悪い。
雲なく澄んで、どの星もきらりと瞬く今夜も、ぎぃ、と耳障りな音を立てるので、ご機嫌だったまんまるお月さまも顔を欠けさせるというもの。
ルージュは、二人で使っている私室に身を滑り込ませる。
多くの民たちが廃墟に幌もしくは薄い屋根を取り付けたものとか、最近やっとでき始めた仮設の住居にて暮らしているが、ルージュともう一人が暮らすこの館は、偶然と幸運が重なって、見た目上の倒壊は免れたものだった。
つまり、現状の王国で一番快適な住環境である。ブルーは、そしてルージュも他にいくらでも使いようがある、と断ったのだが、多くの人たちの声に押し切られてしまった。曰く、地獄の軍勢からこの国を救って、更には今でも尽力しているのだからこれくらいは当然であるとか、紛うことなき救世主で王国の代表者なのだから、少しでも見栄えのする場所にいてくれないと困るとか、そういう意見だった。
(皮肉だね、誰かに押しつけられた人生を生きてきたら、こうやって奉り上げられて、また形代(かたしろ)として往かざるを得ない。
――新しい王国を導くのは、旧い国の最高傑作。なんて滑稽なんだろう)
上澄みの事実だけを見てみれば、喜劇のようだ。
実際に、喜劇なのである。傲慢で欲深い者たちが、すっぱい林檎より甘い林檎を求めたら、その中で巣喰う毒虫に己の肉を食まれてしまった。魔術王国を襲った悲劇とは、そういう喜劇だ。
そして、ルージュの身に起きた奇跡も、倫理や摂理を無視した喜劇であるとも言えよう。
そう思ってしまう、皮肉屋の自分がいる。正確には、客観視と嘯きながら内実は嘲るだけの卑怯者の自分だ。
己の醜悪な部分が、心の水面にふっと浮き上がることがあるけれど、決して顔や耳で伝わる言葉としては出すまいと、ルージュは決めていた。
彼と同じく、この国に生まれた者として真正面から向き合うことに決めたのだ。
暖房を点けているのか、あるいは陽術の光か、ほんわりとした暖気が、少しばかり開いた扉の隙間から伝わってくる。
トレイに載せた夕飯もそれほど冷めておらず、ルージュはほっと胸を撫で下ろした。温かいものは温かいうちに食べるのがいい。こんなに冷える日ならば尚更のことである。
程良く暖められた室内を見やる。電灯も術の灯火もなく、ただぼんやりと仄暗い室内にあって、ブルーの身体の線がやけにくっきりと浮かんで見えた。
虚空に向かって手を伸ばし、光る指先で何かを描くブルーの、その瞳や暗がりでも確かに青い。空色よりは深く、海色よりは淡い、喩えようがない青い瞳が、天窓から差し込む月光に煌めいている。
空でも海でもない瞳が、ルージュの姿を捉えた。
ルージュが手元のランプに火を点けたのと、ほとんど同じタイミングである。
「珍しく仕事はしてないと思ったら、何してるの」
「……物思いに、耽っていた」
「ブルーでもそういうことがあるんだね」
「当たり前だ、俺を何だと思っている」
「冷血漢だと思っていたよ、実際に会うまではさ」
ぼそぼそ言いながら、ルージュはダイニングテーブルの上に、食器やカトラリーを並べていく。てきぱきとしたその動作は慣れたもので、あっという間に食事の準備ができてしまった。
かちゃりかちゃりと、木製の机に陶器や金属類が擦れる音を聞きながら、ブルーはゆっくりと立ち上がり、ダイニングテーブルへと歩いていく。
「今夜のメニューは?」
食事とはつまり栄養補給の一種なので、食味が良いに越したことはないものの、美味かろうと不味かろうと大した違いはない。そのようにブルーは考えていたし、正直なところ、他にやるべきことは幾多にもあるので、食事という行為にはあまり頓着していなかったのだが、一度倒れてからというものの――そしてルージュに怒られてからというものの、ブルーも多少は気を払うようにしていた。
三食欠かさず食べるようになったのは、大きな進歩であろうが、それも作る人間が傍にいるからの話である。
「昼間にリュートが来た時に、野菜をたくさんもらったんだ。
ヨークランドからの支援物資としてもかなりの量が届いたんだけど、これは個人的にって。
だから今夜はスープにしたよ。オニオングラタンスープ」
てらてらとしたランプの灯りに照らされた食卓には、器に盛られた深い色合いのスープが、湯気と香気を放っていた。その周りには、直火に炙られてとろりと溶けたチーズや、程良く温められた白いパンがある。
よくよく炒めた玉葱の匂い、熱いチーズに凝縮された牛酪に似た香り、温かなパンから漂う小麦の匂い。それらが鼻孔を通じて胃腸を刺激し、そして腹の虫を刺激する。
互いに向き合って手を合わせると、ぐう、と腹の虫が切ない声で鳴いた。
ブルーはひとつ息をつき、ルージュはあははと笑ってから、改めて両手を合わせて、祈りの言葉を唱えた。
「いただきます」
「いただきます」
よく似た声で同じ言葉を誦する。ごく短い音と音の重なり。
そして、食事は始まる。
銀のスプーンでキャメルブラウンのスープを掬う。深い器の底は見えないが、匙で掬ってみれば澄んでいることが分かる。ゆらり揺らめく琥珀の中に、細かく刻まれた玉葱や香り付けのパセリが泳いでいた。
一口、口に含んでみる。
元の形をなくすまで刻まれ、ひたすら炒められた玉葱と甘みと滋味、そこにコンソメ由来のコクを含んだ塩気が加わる。けれど刺激性は皆無だ。人肌よりは温度が高く、されど、火傷するほどでもない温かさのスープが、舌や頬の裏の柔らかい部分にまったりと絡みつく。しかし、粘性はないから、さらりと飲み込める。想像していたよりもずっと優しい味だった。
炙ることで流動性を取り戻したチーズをフォークで突付いて捻り取る。それを白パンの上に乗せて、そのままかぶりつく。保存食ゆえかやや塩辛く、そしてどっしりとした旨味がにじみ出るほどのチーズを、白パンが柔らかく、けれど確かに受け止める。
「……――美味い」
「そう? 良かった」
簡明な褒め言葉を聞いて、ルージュもまた単純に笑った。何の表裏もない、晴れやかな笑顔である。
「ところで、ルージュ。身体の調子はどうだ、大事はないか」
「その言葉、そのまんま君に返すよ、ブルー」
パンを食べながらブルーが問い、スープを啜りながらルージュが返した。
テーブルの真ん中では、ランプが相も変わらず、灯火に似た魔力の光を放ち続けている。その光を挟んで、色合いこそ異なるものの、影や形のよく似た男たちが向き合っていた。
「君が僕のことを心配してくれるのはよく分かる。
僕だって術士だからね、君がどんな術を用いたか、理論も含めて理解しているつもりだ。
だけど、同じくらい僕も君のことを心配しているんだ」
「ルージュ……!」
魔術王国には、命術という種類の術の存在が伝えられている。
陽術と陰術の資質を同時に所持することで発現するとされるが、術について少しでもかじっている者からすれば、所詮は伝説でしかないと一笑に付すことだろう。
しかし、この術は実在するのだ。魔術王国に生まれ、対決の勝者のみがこの術を扱う権利を有する。
常識では有り得ない相反する資質同士の所持、常識の範疇で生きる者には考えられない、血を分けた双子同士での殺し合い。
そうして得られた命術もまた、他の術とは一線を画している。
何せ、生命あるいは魂そのものに触れられる術なのだ。
術者本人の生命力と引き替えに。
「王国が僕たちに掛けた術は、双子の魔力と資質、それから精神を一人に統合する。だけど、体力とか生命力とか、そういうものまでは一緒にならない。――王国も、そこまではできなかったんだろう。
そして命術も、無から有を生み出すほどには万能じゃない――そんなことができたら、本当に神様だ。
だから、ブルー。君は、自分の生命を半分に削って、僕の新しい肉体を作り上げた」
ルージュは、生まれ直したのだ。女の胎からではなく、実の兄弟の肉と命を食って、またこの世界に生まれたのだ。それが、たった独りでこの故郷に残された、彼の望みだったから。
「――お前の身体は、まだどうなるか分からない。
今のところは支障はないようだが……魔術の資質以外は」
「……この前生まれた子にも、資質は宿ってなかったんだよね」
「ああ。原因は何か、調べているが、思い当たるところは一つしかない」
「やっぱり、地獄の再封印が原因っぽいよね。
これまでにないくらい、強固に頑丈に封じたんだもの」
「その代償も、大きかった。だが、あれしか思いつかなかったのは事実だ。それがこのように影響が出るとは、思わなかった」
地獄の再封印。それも、二度と解かれることのない程に堅牢なもの。
光にあふれ、極彩色に囲まれ、魔力に満ち充ちた楽園は、その実、凶猛な魔物たちの巣窟でしかなかった。
王国の奥深くにあった地獄への扉は、今はどこにも通じていない。
天国を目指して作られた呪いの地は、混沌の海原を越えた虚実の果てをさまよっているはずだ。
ほぼ全ての資質を備え、あらゆる術を使いこなしていたその時のブルーだからこそ、この封印は可能な芸当だった。
長らく、本当に長い間、封印という壁を隔てながらも、彼の地と繋がりを保っていた魔術王国。これまで誰も解き明かしいていなかった、疑問にすら思わず、そこにあるのが至極当然だと思っていた事実があった。
「地獄があったからこそ、この国の人々は魔術の資質を生まれ持つことができていた、なんてね……」
「だから、お前の身体に資質は宿らなかった」
「簡単な魔術なら今でも覚えてるし使える。
高位の術のことも構文は分かっているんだよ。
でも、自分の中にあったピースがどこにもないんだ。このピースがはめられないから、どうやっても発動はできない。
妙な気分だよ。今まで当たり前だったものが、使えなくなるなんて」
いつの間にかカトラリーを置いていたルージュが、己の両手をじっと見つめていた。
まだ生まれたばかりで生白い両手は、小刻みに震えている。
今、その手で砂を掬おうとしても、合間からこぼれて落ちていくばかりだろう。
寒さからではなく震え続けるルージュの両手に、やや日に灼けたブルーの右手が上から重ねられる。
「……何? 同情なんて御免だよ」
「ルージュ、お前の料理は美味い。それだけで価値がある」
「僕に飯炊きをしろって言うの」
「違う。お前は俺よりは子どもや客の扱いが上手い。
それに、物事を効率よく進める術を知っている……、これは俺にはない部分だ」
「それはブルーがあんまりにも不器用だったからでしょ。
君だってそんなにバカじゃないんだから、省略できるところはすれば良かったじゃないか。
髪だってさあ、毎日毎日そんなにきちっとまとめなくても生きていけるだろ」
「お前は髪に気を使わなさすぎだ。せっかく今は代謝がいい時期なのに、もう荒れ始めているのは何故だ」
「君は細かすぎなんだよ! いや、毎日山ほど届く書類に全部目を通して内容を覚える細やかさとかは素直に賞賛に値すると思うよ? でもさあ……!」
震えは、収まっていた。その代わり、互いの手と手を爪痕が付くほど強く握り合う。ともすれば、血さえ滲みそうなほど強い力で。
経緯がどうあれ、紆余曲折の末、捻じ曲げられた運命の末に握られた二つの手が、離れることはないだろう。
ほんのりと、スープとチーズの匂いが漂っている。
ゆらゆらと、ランプの灯りが二人を照らしていた。
◆
これは、未来にある運命の話。
欲深い人々により掛けられた呪いは、一人と一人によって見事に解かれた。
舞曲は終わり、舞台の上で踊り続けた人たちは皆一様に喜びながら飛び降りた。
だけど、呪いと変じた魔術が元に戻ったからとて、そのままの魔術が戻ってきた訳ではない。
ならば、この国はまた、痩せた不毛の地へと戻るのか。
「明日も早いんでしょ。さっさと寝なよ」
「……この章を読み切ったらにする」
「さっき新しい章に入ったばかりじゃなかった? やめときなよ。
そうやって寝不足になって倒れられたら、僕だけじゃなくてみんな困るんだよ」
「そのときは、また、お前が助けてくれるんだろう」
互いに寝間着に着替えての、寝室でのことである。
ランプを寝室に持ち込んだブルーが、自分のベッドで寝ころびながら、古くさい本に読みふけっていた。
どうやら少年向けの冒険物語であるらしい。壊れた図書館の一角で見つけたとのことだ。これまで散々冒険してきたくせに、懲りないものだとルージュは思ったが、不意打ちを受けて口ごもった。
「……っ。時と場合にもよるよ。明日倒れたらまず自業自得だから助けない」
ぷいっと身体ごと顔を背けて、ルージュは東向きの窓に目を向けた。
茶色の骨だけになった樹木が、ただ寂しくそこにあった。
「――もうすぐ、冬が来るね」
「そうだな。それまでには、もっとまともな住居が準備できていればいいが」
「……そう、だね」
この街の煉瓦が崩れていなかった頃。
その頃にも季節はあったはずなのに、現在の方が季節をより身近に感じるようになった気がする。
穏やかな春の日差し、夏の容赦ない暑さ、秋の実り、そして冬の厳しい冷気。
花は咲き、葉が伸びた後に種が空を飛んで、そして暗くも暖かな土の中で目覚めの刻を待つのだ。
この王国も、これからはそうやって日々を歴史に刻んでいく。
「ブルー、おやすみなさい」
「おやすみ、ルージュ」
二つ仲良く並んだベッドで、二人はそれぞれに眠りに付く。
生命と魔力を二つに分け合い、二人で生きていくのだ。
同じ夢を夢見て、先の見えず果てない道を、二人は二人で進んでいく。
その先にある、幸せな未来を信じ続けながら。
(20190929追記)
*挿絵をいただきました!
こちらからぜひご覧ください!
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これを更新しているのは2018年の大晦日でございます。
サガフロ歴そのものは結構長いつもりですが、二次創作の対象として小説を書き始めたこと、
そしてサイトとしてスタートしたのも本年2018年からでございます。
これまでにそこまで数を書いているという訳でもないのですが、近年の自分比ではなかなか書いている方です。
なので、一度その集大成的な作品をと思ったのと、今の自分が考えられるだけのハッピーエンドを書いてみたいな、
と思いながら書きました。サガフロも発売から20年を越え、あらゆる解釈が考察され、創作としての形にも
なってきたかと思いますので、二番煎じどころか三番煎じ、いやn番煎じの内容かとは思います。
でもここまで書き切れてひとまず良かったという気持ちで今はいっぱいです。
全く話そのものには関係ありませんが、サガフロが旧スクウェア作品ですので、
それっぽいネタをいくつか仕込んであります。こうやってネタをいくつか入れるのが好きなの……。
このあとがきを書いている時点での考えですが、2019年は同人誌を出したいと考えています。
あとずっと考えていて実行に移せていない7主人公+1の統合長編を2019年には動かしたいなーと考えていて、
ブルー編のエンディングについて考えて書く機会が少なくともあと2回あります。
1つはいわゆるメリーバッドエンドに、もう1つはこれ以上のハッピーエンドにしたいと考えていて、
これ以上となるとどうすれば(自分の中では)納得できるかと悩んでいるところです。
それではここまでお読みいただき、ありがとうございました!
2018.12.31