掴めぬかたち

 薄闇の下、あるいは、薄明の上。葉と葉を折り重ねてできた天蓋に覆われているような、それでいて不意に鼻腔をつつかれるような。
 彼の記憶に明確に残り、今となっては懐かしみも覚える香りだ。
 彼が師の部屋では、いつもこの香が焚かれていた。精神の平静を保ちながらも、術の応用に必要な直感力を高める効果もあるとして。
(――これ、は。夢、か……)
 よく、とてもよく覚えている記憶だった。近くはないが遠くもない過去の出来事。彼の道筋を明確に示した、忌まわしく苦く、しかし彼を彼として定義した記憶。それが夢として網膜の裏、あるいは脳裏で再現されている。彼にはその自覚がある。
 同時に、現在・・の自分自身がどういう状況下にあるかも瞭然としている。より正確にいえば、彼の身体・・がどうなっているのか。
 ひかりかげによって象られたリージョン、ルミナス。
 そこから陰のみで描かれた世界リージョン、オーンブルへと飛んで、切り離された自らの影を再発見した。取り込んだ影とともに、そうして、ブルーは陰術の資質を自らのものとしたのだ。
 文字で事実を書き連ねるのは容易である。しかし、自らの影を追い、そして捕らえてまた己のものとするまでは、それなり、いや、かなりの労力を要した。
 たかが・・・資質などと見くびる愚行などを犯した覚えは一度としてない。ただ、己の内で、血のように巡り、肉のように馴染む魔術の資質とは全く異なって、外界にある資質はその手に収めるところから始めなければならない。旅を始める前から、頭では分かり切っていたことであるが、その実感を得てしまうと、急に疲労感が吹き出してきた。あやふやな想定の栓が引き抜かれて、これから彼が往くはずの道筋が、理想の色した美しいインクで描かれた線が、現実という名前の混濁した墨に塗りつぶされていく。ただのひとつの資質を手に入れるだけでも、これである。更には、術の資質はただ所持しているだけでは宝の持ち腐れ、と言うよりはただの原石、あるいは屑石に過ぎない。つまり、磨かなければ煌めきどころか光ることすらなく、よって旅の道中に修練もこなさなくばならない。
 偉大なる魔術王国の、先人が組み上げた工芸品のように美しい術式。それはあくまで理想に過ぎず、実際の術の発動には幾分かの術力の浪費ロスは避けられない。それと同じように、旅というものでも、気力や体力の消耗は避けられないのだ。
 オーンブルを出てから、すぐさまゲートの術を唱え、触媒を強く掴んだまま降り立ったのは、いつか何かの機会で訪れた、シュライクの街。
 まだ太陽が傾く時間でもなかったが、宿ホテルに駆け込み、部屋を取ったのが一刻ほど前のこと。
 一昼夜、場合によっては加えてもう一日滞在することになる洋室は、実にシンプルな造りで、よくよく整えられており、清潔感もあったが、影の領域から帰還したばかりの、何より、陰術の資質を得たブルーにとって、窓から容赦なく差し込む陽光、それがそのまま落ちるベッドは疎ましく思えたのだった。また、彼はごく真面目な人間ヒューマンである。朝に起きて昼に業を成し、夜にも勉学に勤め、真夜中には眠る人種である。特に故郷で過ごした学生の時分においては、昼寝は時間の無駄どころか罪とも捉えていたほどに謹厳であった。そういう気質もあってか、昼中ひるなかから寝転がりたくはなくて、ひとまずは部屋の片隅にある椅子に腰掛ける。
 例えばクーロンの安宿とは違い、それなりの品質クオリティが約束されているホテルだ。よって、備え付けの調度品もそこそこに良いものであることには違いなかった。事実、その安楽椅子イージーチェアのクッションは、疲労が溜まって筋の凝ったブルーの身体を柔らかく、そして優しく受け止めた。体重を掛ければ、そのまま素直に沈み込んでいく感触が心地よく、沈んだ分だけ疲労が溶けていくような錯覚を認める。
 単純に、疲れていた。
 だから、ブルーはそのまま瞳を閉じた。
 いわゆるモダンと呼ばれる配色の室内が、重い瞼で遮られて、ブルーの視界は夜空よりも暗い黒一色に塗り替えられる。
 そこから、どれほどの時間が立っただろうか。刹那よりはずっと長いだろうが、永遠にはとても届かないくらいの、とても曖昧な時の流れ。吹き溜まりのような湖でずっとたゆたっているような、あるいは水底まで沈んでいくその途中のような。
 かつて見たことのある、身体が覚えている、懐かしく在りつつも、忌まわしい感情と強く結びついた記憶。それが再現されようとしている。 
 魔術王国の学院は、塗れたような艶を放つ乳白色で造られていて、ブルーが幼い頃より師事していた高等術士の研究室も例外ではなかった。床も柱も天井も、ぬらりと光るその石でできているのに、継ぎ目はどこにも見あたらなかった。何百人という人間が通い、あるいは居住している学び舎が、実はすべて術の力で建立されたものだと分かった・・・・のは、無感情なはずの石から僅かに立ち上る魔力の残香を感じ取ってからのことだ。
 師の部屋から、蝋にも似た白い石からの魔力を拾ったことはなかった。カンバスのように真っ白な部屋は、黒檀エボニーの棚で縁取られていて、何者をも差し置いて、中央にどっかりと設えられた文机には、およそ高度な魔術の技法書、書き掛けの論文、そしてどこかの領域リージョンから採取してきたとおぼしき、それは大きな水晶の群生クラスターなどが置かれていた。
 焼き菓子のように甘ったるく、その中に気付けの火酒ウイスキーのような苦味と辛味をはらんだ香、それから部屋の真芯のように鎮座して、様々な色、光、時には影をも映し込む水晶、数々の希少な専門書、何より師自身。あらゆる情報と魔力が混ざり合っているのに、ひとつの法則で整理されているらしいその部屋では、朝煙のような魔力など無きに等しい。
 それでも、その時のブルーは、いつもいつでもその身にまとわりつき、結果肌によく馴染んだその空気を、探していたのだ。そうしなければ、呼吸ができなくなるような気がして。
 ――これが、君の宿命の形だ。
 ほうら、ブルー。よくご覧なさい、そして、その眼にしっかりと焼き付けなさい。
 木の洞を叩くような、もしくは鈴の転がるような。
 その声がどんな色をしていたかは、今のブルーには思い出せない。
 しかし、それがどんな形の言葉だったのかは、よく覚えていた。
 毎朝毎夕、鏡の前で見る顔を、脳髄に彫り込む必要はなかった。
 ただ、ただ、一番最初のその時だけは、背筋に怖気が走った。
 色も形も全く違うのに、かおだけは写し取ったかのように酷似している他人が、存在している事実を一瞬では理解できなかったのだ。
 寄り集まる石英の結晶の中で、星のような銀髪に、紅玉ルビー似た紅い瞳、そのあかを基調とした法服ローブに身を包んだ少年が微笑を浮かべている。思春期を過ぎてこれから青年期へと手を伸ばし行く、若葉と青葉の中間のように柔靱じゅうじんなその立ち姿。
 ――これが、君の運命の色だ。
 さあ、ブルー。よくお聞きなさい。彼の名はルージュ、お前がその手で殺す男の名前、そしてお前の双子の兄弟の名前。その胸に、しかと、刻み込みなさい。
 そして、師は立ち上がり、過去でも夢でも、そして恐らく現実でも安楽椅子イージーチェアに座するブルーがいる方向へ、ゆっくり、ゆっくりと歩を進める。その手に小刀ナイフを携えて。
 ブルーは息を呑んだ。喉元がごくりと明らかな音を立てて上下したが、それが夢なのかうつつのものなのかの判別は付かない。ぎらりと閃く刃を手にした師からは、敵意らしきものは感じなかった。それは当然のことだ、考えるまでもなく当たり前のことだ。術士に剣も拳もいらない、起立の動作すらいらない。脳で思考し、神経で魔力を練り、そして唇で唱えれば、術の刃が飛んでいく。習熟度に差はあれ、それはブルーも変わらない。
 しかし、師はわざわざ歩いてブルーの目前にまで来て、よく研がれた小刀を手渡したのだ。見下ろすその眼が何色をしていたのか、やはりブルーははっきりと記憶していなかったが、視線は冷厳であった。
 ――何をすべきか、分かっているでしょう。
 過去はどうしても、変えられない。
 夢と分かっていても、止められない。
 彼自身、今、己が瞼の裏に映しているのは、過去の記憶を下敷きとした明晰夢めいせきむと呼ばれるものと分かっている。つまり、夢だと自覚している夢なのだ。よって、これは夢に過ぎず、念ずれば他の景色を呼び出したり、あるいは別の結果・・・・を視ることも可能なのかもしれない。しかし、これは、変えることの叶わぬ過去の再現でもある。
(そして、変える必要性は微塵もない)
 新月の小夜の湖のように、細波さざなみのひとつも立てない青藍せいらんの瞳は、師が差し出した小刀を、ただそのままに映していた。
 彼は才気にあふれ、そして勉励も怠らない青年だった。要領のいい少年だった。ひどく聞き分けのいい子どもだった。
 だから、一から十まで説き聞かされずとも分かっていた。
 ブルーは小刀を受け取ってから立ち上がり、淀みない足取りで黒檀の机まで近づいていく。
 さも当然と言わんばかり、いや、言葉にすることすら愚かしい、流水のようなその所作は、幼少時からの教導の賜物だ。自らこの道を選び取ったと思いこんでいる彼には、四肢に絡みつく操り糸は見えてないのだろう。例え明確な自我があり、糸を断ち切ったとて、彼らは宿命その道を逸脱することなどできないのだけれども。
 一つに結い上げてなお、背へと落ちる支子くちなし色の髪を眺めながら、師と呼ばれているその人が、ふっ、と短く息を吐き出してから、右の口角を上げていたことに、ブルーは気づいていなかった。気づいたからとて何かが変わる訳ではない。全ては三女神の意の下、仕組まれいることなのだから。
 無色透明であるはずの水晶の中から、相も変わらずの態度のルージュが、ブルーの双子の兄弟が、目線の先の誰かに笑いかけている。何らかの術を媒介とした記録映像、あるいは同時並行リアルタイムで映し出されたものだとの推測は容易だ。――どちらにせよ、ルージュが見ている誰かは、ブルーではない。笑いかけているのは、ブルーにではない。
 それを確認してから、ブルーは静かに右腕を振り上げた。
 その動きに応じてか、水晶の中、ホログラフィーで形作られたルージュも右手を上げた。あかい紅い、銀朱の瞳が一瞬、煌めいたような気がして、ブルーは小刀を振りかぶった姿勢のまま、はっと息を呑む。その瞬時、その刹那こそ、常久じょうきゅうのように永く感じたのだ。
 次の瞬間のルージュがどう動くか、何をしてくるのか、ブルーはただの水晶を強くきつく睨みつける。
 ルージュは、銀の髪を揺らして、白い頬を赤く染めて、紅い法服ローブにはたくさんの皺を付けて。
 それから、自らの頬の近くまで上げた右手を開き、ひらひらと横に振った。
 知り合いを見つけたのか、あるいは一時の別れを告げているのか、それが友人などに贈る親愛表現であることは、ブルーも当然知っていた。
 五指をしっかりと開いた右手を、ルージュは実に気安くひらりと振って、目線の先の誰かに話しかけている。緩い弧を描く唇から、どんな言葉がこぼれているのか、ブルーには、そして恐らく師にも分からなかったが、そう殺伐としたものではなく、これまでの状況から、むしろ和やかなものであろうとの推論は成る。
 ルージュは、多弁であるらしい。ブルーと全く同じ顔立ちに浮かび、そして転がり行く表情は豊かで、唇もまた、忙しなく動いていた。
 そして、また、次の瞬間。
 ブルーは小刀を持った右腕を、勢いを加えて振り下ろした。
 金属と石が澄んだ音を立てつつも、激しく衝突する。
 小刀の刃はこぼれるが、石英の群体もまた色を失ってから千々ちぢに砕けた。
 ほとんど不可逆な破壊の後、飛び散った水晶の一片ひとかけらがブルーの足下へと落ちて転がる。
 何の色も宿さず、透き通っているはずのそれに、血のような、もしくは彼の瞳のような紅い色が見えた気がした。
 ブルーは無意識的に、もはや力も失われたちっぽけな石を、革靴ブーツで踏んでから丹念に砕く。
 奥歯で砂を噛んだときのような感触が粟となり、彼の全身を駆け巡った。
 その時の、何とも言えぬ、何でも拭えぬ不快さが、そっくりそのまま彼の顔に浮かび、まだ机に残る水晶の一部がブルーの瞳に彼自身の顔を映して見せつける。
 あのルージュとは対照的に、渋面を作る己自身が、ひどく醜く見えていた。
 息を吸う、吸ってから、吐く。師の部屋には、あの甘くて辛い香が染み着いているのに、何も感じない。
 学院の石から放たれる、燐光のような魔力も、感じられない。
 それもそのはずである。なぜならば、ここは、魔法王国ではない。
 現在いま、ここにいるのは、修士課程を卒業し、世界周遊の旅に出たブルー。
 オーンブルで陰術の資質を得て、シュライクの宿で夢と現の浅い境目でたゆたっているブルーだ。
 かくして、意識が現実へと引き上げられた。
 ブルーは薄く目を開ける。
 着付けたままの法衣にはうっすらと汗が滲み、額にも同じものが浮かんでいる。着けたままのサークレットが痛むことに思い至り、慌てて外した。
 起きたばかりの視界は歪んでいる。
 この夢を見た後は、いつでもそうだった。
(……認めたくない)
 それが、故郷にいる時のみならず、旅に出てからも同じことなのだと思い知り、ブルーは嘆息した。
 懐かしくも忌まわしい、色を忘れた夢。
 彼の宿命が示された、過去の記憶。
 形と言葉ははっきりと覚えているそれを夢として視てから起きると、例外なく視界は歪み、色彩は滲むのだ。
 すなわち……、ブルーはいつも、泣きながら目を覚ましている。
(なぜ、いつも、こうなる)
 悲しくはないが、嬉しくもない。
 己の存在理由を脅かし、完全なる術士への道を阻む最大の障壁、ルージュ。憎々しく思いこそすれ、肉親だからという愛情を抱くことはない。
 ブルーは再び目蓋を閉じた。青藍の瞳を覆うように膜を張った涙が、たまの形となってこぼれ落ちて、ブルーの頬を濡らした。
 その涙を拭うように、陽光が差し込む。
 安楽椅子に腰掛けてから、それほど時間は立っていないらしかった。太陽はまだ高い位置にあるようで、まばゆい光が、ブルーの生白い肌を灼く。
 秘境の地へも赴くこともある旅である。日焼けなどは気にしないが、陰術の資質を宿した身。それに柔らかで暖かな陽光を受けては悪い影響があるのではないか。まだ意識が混濁しているからか、筋の通るようで通らない理論が脳裏を過ぎり、ブルーは安楽椅子から立ち上がろうとした。
「動かないで、そのままでいて。
 ――まだ濡れているよ、僕が乾かそう」
 この部屋にないはずの、声が聞こえる。
 自らのそれに似ているが、明らかに聞き覚えのない音吐おんとが、彼の鼓膜を、胸を、心臓を震わせる。
 ブルーは咄嗟に目を見開いた。
 視界に飛び込んできたのは、シュライクの宿のモダン調の室内ではない。
 穏やかに晴れた日の太陽を思わせるような、柔らかな光。しかし、それは陽光ではない・・・・・・
 日の光を集めて縁取られた、淡い色彩の身体が、宙に浮いていた。やんわりと波打つ星色の髪もまた、重力を無視してふわふわと浮かんでいて、ブルーの鼻頭をくすぐる。ゆったりとした余裕を持たせて縫製された、紅緋の法衣もまた、の意思とは関係なく揺れて、なのに、紅玉ルビーのように紅い瞳だけは揺らぐことなく、まっすぐにを見つめていた。
 水晶の内側にいた彼と、色合いはほぼ同一。
 水晶の外側から見た時より、時は重なり、顔も体つきも青年そのもの。
 それはブルーも同じ。時間は彼を少年から青年へと変えたが、それでも、相手と自分自身は、まるで鏡合わせのように良く似ている――。
 今は、相見あいまみえるべき時ではない。宿命を果たして運命を掴み取るその時ではない。なのに、すぐ傍にいる、手を伸ばせば、すぐに届きそうなほど間近に。
 あの時とは似ているようで異なる。水晶の内と外ではなく、同じ室内に、何の隔ても置かず、相手の気配、吐息、そして体温まで感じられそうだ。
「る、ルー……」
 ブルーは、膝上に置いていた右手を、おずおずと伸ばした。暖かな光を絡ませて、浮遊するルージュの頬へと手を伸ばす。手のひらから、まるで、真昼の太陽に手を翳したときのようなじわりとした熱が伝わってくる。
「…………ブルー」
 ルージュは笑った。
 己の双子の兄弟の名を、やや遠慮がちに呼んでから、眉尻を下げて、やや困ったような顔をして、笑いかけてくる。
 他でもない、己の半身に向かって。
 水晶の中のルージュも、笑っていた。屈託なく、恐れるものもなく、ただ無邪気に笑っていた。
 それとはまた種類が異なる笑顔のまま、座するブルーを宙から見下ろしていたルージュは、自らの頬へと伸びたブルーの右手を左手で掴む。
 生白い手指が、少しばかり赤く灼けていく。
 ちりちりとした熱を感じて、ブルーは右手を引っ込めるが、それと同時に、太陽光のような熱をも宿したルージュが、覆い被さってきた。
 淡く光る真白の左手がブルーの後頭部を支え、右手がまだ涙の跡が残る頬をやわやわと撫でていく。
 暖かで、和やかで、じわじわと迫り来るものがあって、落ち着かない。
 さすがの事態に身を捩るブルーのおとがいを、ルージュの右手がやんわりと包む。
 それから、耳許に唇を寄せて、そっと囁いた。
「――――……だよ」
 途端。
 ルージュが、消えた。
 室内を明るく照らし出していた光は全て消え、夕方と言える時間も過ぎ、外の世界は黄昏時。
 陽光よりも薄闇が支配する世界に、ブルーは取り残された。
 その中でもはっきりと分かることがある。
 両頬を湿らせた涙はもはやその跡もない。
 右手は、日焼けでもしたように紅潮し、熱を持っていた。
 例の言葉・・・・を吹き込まれた耳もまた、熱を持ち続けていた。
 耳朶を人差し指と親指でつまみながら、ブルーは陰術の資質を得てなお、何も見いだせない虚空を見つめていた。
 恥ずべきだと思ったのだ、今し方の自らの失態を。
 認めたくなかったのだ、あの夢を見る度に、涙を流していた理由を。
 ただ、声を聞いてみたいと想い続けてきたことなんて。
 ブルーは、また泣いた。止めどなく溢れる涙を止めようとも思わなかった。
 なぜ己が泣いているのか。その理由こそ、誰にも知られたくなかった。
 ひかりのように、かげのように、掴むことができない想いを掻き抱いて、泣き続けたのである。
 
    
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