#掌編 結局この前の土日に書けなかった話を、平日なのでこの記事(No.53)に少しずつ書いていきます。
(書き上がったらその時点で記事を上げます)
――――――――――――――――――――――――
ヨークランドは晴天の日が多い。
今日も朝からスッキリと晴れ上がっていて、良く見慣れた、吸い込まれそうなほど広い青空を、リュートは上目で眺めていた。
この空のように大らかで、時たま器の大きさを覗かせる青年だが、その顔には珍しく、焦りであるとか、怖れなどの感情が汗となって頬を伝っている。
首から下はすっぽりとカットクロスに包まれて、まるでてるてる坊主のような出で立ちである。
よく日の差す小高い丘の上で、小さく座り心地はやや悪い椅子に腰掛けて、後ろに立って彼の髪の一房(ひとふさ)を取る細い指の感触に、神経を集中させている。
何と言っても、誰でも知ってる雑誌のモデルとして、誌面のみならずリージョン界の若い女性たちの憧れだった彼女である。
華やかな顔立ちに抜群のスタイルを誇る美女だ、リュートはことあるごとに鼻の下を伸ばしているが、身の危険が迫っているとなれば話は別である。
「なあ~、エミリア。俺は別に困ってないからさー、今からでもやめにしない?」
「遠慮なんてすることないわよ。それに、私ね、ずっと気になっていたの。
こんなに伸びっぱなしの髪、あまり手入れはしていなんでしょう。髪の量もすごく多いみたいだし。
梳いて揃えるくらいならできるから、いつもみたいにどーんと構えてなさい」
エミリアは笑う、憂いなどないように笑う、その笑顔はまるでこの日の空のように晴れやかであった。
その手に握られる銀色の鋏もまた、陽光を反射してか、ぎらりとした輝きを見せる。
……どうやら、よく手入れされているようで、錆(さび)のひとつもない様子から、切れ味の良さも推し量れるというもの。
さすがのリュートも知っている。
銃を持って戦いの場に出るときのエミリアは、モデルではなく、一人の戦士だ。
精緻な射撃の腕前には、現役IRPO隊員でさえも舌を巻くが、彼女いわく「そうしないと生きてこられなかったから」磨いたに過ぎないのだという。
しかし、リュートは知っている。
一度戦場を離れれば、ただ明るくて、少し調子に乗った、そのままの彼女に戻ることを。
――その状態のエミリアは、結構抜けたところがあって、そして不器用になってしまうことを、リュートはよく知っていた。
――――――――――――――――――――――――
今日はここまで
(初稿20191203、1216更新)