casual remark ―何気ない言葉で―


(※多少句読点などを直していますが、それ以外は書いた当時そのままの内容です)



………光。
空から降り注ぐ、柔らかな陽光が、見渡す限り一面を照らしている。
その光にあわせて、優しい風が吹き、地から生える草花が揺れる。
草花が揺れて、葉同士がこすれてサワサワと音を立てる。
その音の他に、坂の下に流れる小川のせせらぎが、小さくではあるが耳に聞こえてくる。

…………………幸せ。
突然に天が瞬き、その無慈悲な光が地を裂くということは、もう無い。
小さな芽さえ育たぬような、枯れた土地も無くなった。
あの頃はどこまでも続く終わりの色に照らされていた世界は今、希望に満ちた未来に包まれ、穏やかな時間が流れていた。
誰もが望んだ平和な世界。それを否定するものはいないけど、ある種の戸惑いを感じるものはいた。
セリスも、その一人である。

彼女は、帝国に生まれ、兵器として育ってきた。世界奪取を目論むガストラの下では穏やかな生活など与えられるはずも無く、
父親代わりとしていたシドも、自分の研究を優先し、その頃は彼女に兵器としてあることを望んだ。
物心ついたとき、既に両親は他界していた。
幼い頃から戦士、そして兵器として生きてきたセリス。だから、穏やかに時が過ぎていくことなど、初めてのことだった。
もしかしたら、これが初めて与えられた・・・いや、自分と仲間達で作った「自由」なのかもしれない。
だからこそ彼女は、戸惑いを感じていた。
いきなり「自由」であると告げられても、今までそうであったことがない彼女にとって、それは不安なことであった。
これからどうすればいいのだろう。私はどうしてこれからを生きていくのだろう。
そんなことを彼に言ったら、ただ(良かったらという言葉がついていたけれど)、自分についてくればいい、と言ってくれた。
そして彼は今、こうして自分の傍らで寝ている。
セリスは微笑みながら、ロックの寝顔を眺めていた。
すっきりと晴れた空の下で昼寝をするのが好きなのだと、以前ロックが言っていたのを覚えている。
ロックはしばらくの間寝ていて、セリスは周りの風景を見たり、ロックの寝顔を見たりしていた。そのうちロックが気づいたらしい。セリスに話し掛けてきた。
「…………どうしたんだ?」
「……綺麗だな って思って。私、今までこうして、ゆっくり景色を眺めることをしたことはなかったから」
「…………そうか」
ロックは一言そういうと、横になった体勢のままで一回伸びて、上半身を起こした後にもう一回伸びをした。
「……ねぇ」
「なんだ?」
「みんなは、どうしているかしら?」
「そうだなあ……あの王様は城に戻って、街とかの復興に忙しいだろうし、マッシュもその手伝いをしているだろうな。
ティナはモズリブの村に戻って子供たちの面倒をみているだろうし、カイエンもドマの復興に忙しいだろ?
ガウは獣ヶ原に戻って気ままにやってるんだろうな。リルムとストラゴスはサマサの村の復興の手伝いをやっているんだろうけど、
もともとあそこはそんなに壊れたところはなかったから、戦う前の生活をしているんじゃないか?」
「そっか……」
「いきなりそんなこと言い出して、どうかしたのか?」 
ロックの問いには答えず、セリスは再びロックに問う。
「ロックはこれからどうするの?」
「俺?俺はなぁ……トレジャーハントを再開するよ。まだまだこの世界にはみたこともないようなお宝が沢山あるだろうからな!」
問いを無視されたことは気にせず、これからの夢を語るロック。嬉しそうに語るロックに、セリスも眼を細める。
「お前は?」
「………………え?」
「お前はどうするんだ?」
その問いに、セリスの笑みは少しずつ無表情になっていく。
「まだ、決まってないんだな……」
「うん……。ロックは、ついてきてもいいって言ってくれた。だから私は今、こうしてここにいるわ。でも……」
うつむき、ため息一つついて、セリスは続ける。
「このまま、着いて行ってもいいのか、分らない。貴方の邪魔になるだけかもしれないわ……」

「お前の好きにすればいいさ」
「…………え?」
「別に俺は、お前が着いて来ても、邪魔だとは思わないし、いや、むしろついてきて欲しいし、でもそれでもお前が俺の邪魔になるって思うのなら、別に……」
ついてこなくてもいいしさ。
その言葉が続かなかった。
守りたい。
その言葉を、セリスは覚えていた。彼のその信念は、世界が平和になろうとも変わらないのだろう。
かつて、自分にその言葉をくれた彼。それを、今でも、信じていいのだろうか・・?
…………いや、信じてみよう。これからも、ずっと。
「着いて行って、いいんだよね?」
「……………………ああ」
顔を真っ赤にさせながら、ロックは答える。その答えに、セリスは顔を赤くさせながら、笑みを浮かべた。そして……
「うわっ………………」
ロックの赤面顔が、さらに赤くなった。
セリスがロックの身体に抱きついている。
「…………何するんだっ、いきなり!!」
「いいの、しばらく、こうしていさせて…………」
惚れた女のその言葉には反論できず…………。
暖かな光の中。
二人はしばらく、その体勢で、ゆっくりと過ぎていく時を、過ごしたのだった。



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